神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

週刊ダイヤモンド2023年10月7・14日合併特大号読後評②

相関図から読み解く

週刊ダイヤモンド2023年10月7・14日合併特大号(44-45p)の相関図を見て「悪人どもがこのようにつながっているのか」と納得してしまう人は情報化社会でカモにされてしまいやすい人なので注意した方がいいですよ。そもそも相関図というのは作成者の主観が強く反映されるものであるから、相関図を事実として受け入れるのではなく、「著者はこのように考えているのだな」という参考程度に留めるが賢明です。

しかもこの相関図にはツッコミどころが多い。いくつか指摘しましょう。

①義甥

相関図だと三笠智春氏を打田文博氏の「義甥」と書いていますが、これは厳密に言うと間違いです。「義甥」というのは打田氏の奥さんの兄弟姉妹の男子を意味します。しかしながら三笠氏は打田氏の奥さんの兄弟姉妹の娘と結婚したのであって、打田氏の奥さんとは血縁関係がありません。打田氏から見て三笠氏は「妻の兄弟姉妹の娘と結婚した男性」です。打田氏の奥さんから見て三笠氏は「甥」ではなく、「姪婿」(めいむこ)です。だから打田氏から見て三笠氏は「義理の姪の旦那」または「妻にとっての姪婿」になります。無理やり漢字で表現すると「義姪婿」になるのですが、そんな言葉は日常的に見たことがありません。表現する言葉がないくらい遠い親戚ということです。

したがって相関図45pの「義甥」は間違いなのですが、作成者が「義理の姪の配偶者」を「義甥」と勘違いしているのであれば日本語の勉強不足ですし、本当に義理の甥だと認識しているのであれば取材不足ですし、事実を知っていながら少しでも打田氏との関係性が強い印象を読者に与えようとして「義甥」と書いたならそれは印象操作です。いずれにせよ不適切な表現であることはいうまでもありません。

②元主従

この表を見ると「元主従」という表現が多数みられます。この言葉が「元上司・元部下の関係」だという意味であれば、退職した職員も含め神社本庁の全職員は田中恆清氏と「主従」の関係にあり、裁判で争った稲氏と瀬尾氏も田中氏と「主従」の関係になります。それはおかしいですよね。

このように元上司部下でも関係が悪いという可能性もある訳です。しかし、作成者は「元主従」という関係をわざわざ書いた。これは「Aさんを重用したのは田中恆清氏であり、2人は良好な関係にある」という内部情報を入手しているからだと考えるしかありません。そして、そうした情報は神社本庁内部の人間にしかわからないことです。つまり神社本庁役職員の誰かがこの相関図の作成に協力していると考えるのが自然です。しかし、その役職員は中立公平な立場の方なのでしょうか?

③関係性の強調

相関図では安倍元首相と打田氏との関係について、ツーショット写真を紹介し、「じっこん」と書かれています。ただ自分の政党の支持団体のトップに対してファンサービスで写真撮影に応じるのは政治家として当たり前のことであり、正直言ってその程度で「じっこん」というのは強調しすぎです。地元の遊説のときに「応援してます~写真撮ってください」と言えば大抵応じてもらえます。最近では写真を悪用する人もいるので、ツーショット写真を撮られることを警戒するベテランの秘書もいますが、支持団体の人間とか自民党員などの身元がはっきりしていれば拒否されることはまずありません。このように特に親しいとは言えないような関係を、さも協力関係にあるように強調して書いてあるような箇所があります。

情報提供者の重要性

一連の報道で神社本庁関係者が取材に応じていますので、人間関係などの内部の情報を外部に提供している役職員がいることは間違いないでしょう。一連の報道から情報提供者の人物像を想像するに、田中氏や打田氏によって一部の職員が依怙贔屓され、実力や実績のある(と情報提供者本人が思っている)人材が不当に不遇な待遇を強いられており、田中氏と打田氏を本庁から排斥することで正しい人事評価がされて組織が正常化すると考えている人物ではないかなと想像しています。

実際の情報提供者がどのような人物かはわかりませんが、この相関図を見て何を思うのでしょうか?田中氏と打田氏の2人を神社本庁から排斥することが仮に正義だったとしても、尊皇の心があるなら醜聞報道のなかに上皇陛下や宮内庁の名が記されるのは避けるべきですし、鷹司家の格式を尊ぶのであればトラブルに巻き込まないようにすべきですし、地方の神社や神職のことを想うのであれば神社本庁の社会的信頼の失墜を避けたいと思うはずです。情報提供者のやり方は、船長が気に入らないからといって船を沈めるようなものです。目的の是非は別として、手段は神社神道にとって良い結果をもたらしません。

このように情報提供者を含めて本庁内部の職員というのは名前こそ報道されませんが重要なファクターです。それを踏まえて、本庁内部のアンチ田中・打田派が鷹司統理と芦原氏を矢面に立たせて田中・打田おろしを実現しようとしているという可能性についても検証していくべきでしょう。本庁問題の原因は一つではなく、いろいろな要因がからみあって発生したのでしょうが、その一つに神社本庁内の出世争いや仲たがいが過熱して、OBや役員を巻き込んでの総長の座をめぐる争いに発展したという面もあるのではないでしょうか?