神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

週刊ダイヤモンド2023年10月7・14日合併特大号読後評①

義甥だからといって

創価学会、神社、旧統一教会…連鎖没落の危機にひんする「巨大宗教」の今 | 週刊ダイヤモンドの見どころ | 週刊ダイヤモンドの「神政連会長親戚が巨額横領」(34~35p)には矛盾があります。

まず東京都神社庁で横領をしたとされるM氏は「打田会長の義理のおいという親戚系関係にあり」と書かれています。この打田会長とは神道政治連盟会長の打田文博氏のことです。その上で記事は「神政連のトップに絡む横領事件が今後、どう影響していくのか予断を許さない」と締めくくっているのですが、打田氏と横領事件がどう絡んでいるのでしょうか?

接点は打田氏がM氏と「親戚」関係にあるという点だけです。しかも打田氏とM氏の関係は「義理のおい」、義理の姪の配偶者です。つまり打田氏の奥さんの兄弟姉妹の娘(=義理の姪)が結婚した相手がM氏です。「親族」には該当しませんし、義理の姪と離婚すれば親戚関係は終わります。

冠婚葬祭において打田氏はM氏サイドではなく、義姪サイドに座ることになります。M氏と義姪の間でトラブルになれば義姪の味方につくことになります(そうしないと打田氏は奥さんand義実家との関係が悪化する)。

だから打田氏がM氏を助けるとするなら、それは義姪または奥さんの実家からの依頼に基づくことになります。しかし、M氏と義姪との関係は良くないと報じられています。M氏も「妻との度重なる口論によるストレスで」(35p)と「事情説明書」で述べています。そうなると打田氏にとってベストな選択は義理の姪とその親に離婚を勧めてM氏との親戚関係を終わらせることです。親戚でなくなれば雑誌で批判されることもありません。

このように打田氏にとって、M氏は親戚関係を終わらせることのできる遠い親戚であり、親戚だから庇うとは限らないのです。むしろ親戚関係を終わらせてしまう方が得策です。この問題は『東洋経済』でも報道されましたが、打田氏とM氏が親戚である以上に特に親しいことを証明する情報は出ていません。

義理の姪の結婚相手だから打田氏が横領事件に絡むと考えるのは論理の飛躍です。

お金を取り返す

横領されたお金が返ってこないこともありますし、横領した人間が全員懲戒解雇される訳でもありません。被害金額の回収と懲戒解雇は難しいのです。

横領事件が発生したときに、拙速に懲戒解雇してお金を取り返せないトップよりも、懲戒処分を交渉カードにして横領犯やその親族からお金を返還させることを優先するトップの方が組織にとっては有能です。神社庁のお金は神社関係者から預かったお金であり、取り返すことを最優先するのが神社庁を信頼してお金を寄付、協賛してくれた人に対する責任です。お金の回収よりも懲戒処分を優先するのは、自分の正義感を満足させたい、犯人を罰することでトップに批判の矛先が向けられるのを避けたいからであって、本当に神社庁のこと、寄付してくれた人のことを大切に思っているのであればお金の回収を優先します。「懲戒解雇しましたから」と幕引きを図るのは寄付してくれた人を軽んじています。そのため東京都神社庁長がお金を回収したことをきちんと評価すべきです。

関係者って誰?

雑誌でよく見かける「関係者によれば」という情報ほど信用できないものはないと私は思っています。利害関係者の場合もあるからです。

例えば、現在、神社本庁では内部で派閥抗争をしています。そのため神社本庁関係者は①統理派、②田中派、③その他、に分類されます。どちらかの派閥に属している関係者が、対立派閥を批判するコメントを述べた場合、そのコメントには客観性がありません。

記事では、東京都神社庁の横領のタイミングが神社庁神社本庁の会合の前後に集中していると指摘していますが、銀行の窓口が開いているのは平日、神社本庁と東京都神社庁の会合も平日、そして週一回は都内で何らかの神社関係者の会合が開催されています。だから確率的に横領の前後数日に神社関係の会合があるのは当たり前です。横領されたお金と会合の因果関係の証明にはなりません。

政治家は人気商売

また記事では政治家との関係が指摘されていますが、政治家というのは有権者の票がないと失脚する人気商売です。だから「応援してます」と近づけば愛想良く応じてくれます。ましてや後援会など応援してくれている団体のメンバーなら簡単にツーショット写真に応じてくれます。

したがって打田氏と安倍元首相、M氏と丸川議員の写真は打田氏とM氏が自民党に特別な影響力があることの証明にはなりません。写真を見るときはどういうシチュエーションかに注意すべきです。スーツで握手しているだけでは政治家が支援者へのファンサービスとして撮影した記念写真の可能性が高いので親密であることの証明にはなりませんが、プライベートな装いで一緒に会食しているなら親密な交際があることの論拠になります。ダイヤモンドのM氏と丸川議員の写真はどう見ても支援者へのファンサービスとしか見えません。ディズニーランドに行ってミッキーと写真を撮ったレベルの情報で、雑誌に掲載するほどの価値はありませんし、ファンサービスの記念写真を自民党との関係の論拠として採用するのは無理筋です。

総じて論理の飛躍や情報の偏り、情報不足を憶測で補う無理筋な論理展開があるというのが感想です。