神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

『紙の爆弾』2023年7月号読後評

NEWSレスQ

鹿砦社(ろくさいしゃ)が発行する月刊『紙の爆弾』2023年7月号の「NEWSレスQ」に「神道政治連盟会長の義甥の横領事件」と題する記事が掲載されました。

ちなみに「鹿砦」というのは敵の侵入を防ぐために木や竹を鹿の角の様に組んだ垣(バリケード)のことです。その報道姿勢は2005年5月号の「死滅したジャーナリズムの彼方から〈ペンのテロリスト〉として、愚直にすべての巨悪とタブーに挑戦!!」https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000082)に端的に示されています。創刊15周年を迎えた2020年のHP記事にもその姿勢が不変であることが示されています(https://www.rokusaisha.com/wp/?p=34780)。

そのような雑誌に東京都神社庁の横領疑惑が掲載され、更にそれを「神社本庁の自浄を願う会」がHPで紹介しました(神道政治連盟会長の義甥の横領事件|自浄.jp)。

今回はこの「NEWSレスQ」を論評したいと思います。

義甥とは何か?

「義甥」(ぎせい)とは自分の配偶者の甥のことです。ちなみに配偶者の姪のことを「義姪」(ぎめい)といいます。義甥は本人から見て3親等の姻族に該当しますので、法律上の「親族」です。

「義甥(義理の甥)」とはどんな意味?行政書士が家系図で解説!

ここで注意が必要なのは、義姪の配偶者は義甥ではないということです。自分の姪の配偶者も甥とは言いません。だから横領をしたM氏が打田氏にとって義理の姪にあたる女性の結婚相手だった場合、M氏を義甥と呼ぶのは日本語的に誤りです。

かつ義甥・義姪は親族ですが、義甥の配偶者・義姪の配偶者は姻族ではないので法律上の親族ではありません。

親族の法的な範囲(親等)を家系図を元に説明!血族・姻族との違いも

このようにM氏が義甥なのか、義姪の配偶者なのかによって親族になるのかorならないのかが違ってきます。

取材してみた

私が複数の神社関係者に取材したところM氏は打田氏の義理の姪の配偶者であるということがわかりました。義甥でもなく、法律上の親族でもありません。「NEWSレスQ」の「義甥」という表現は完全な間違いです。

これは情報提供者や本記事をそのまま紹介している「自浄.jp」等が、打田氏とM氏の関係を正確に把握していない証拠です。

実名報道の是非

「NEWSレスQ」はM氏の実名、奉仕する神社の実名を晒し、さらに打田会長の親戚であると述べていますが、それらを述べる社会的必要性があるのか甚だ疑問が残ります。まず逮捕や起訴されてから実名で報道するのが一般的であり、逮捕や起訴される前の段階でM氏の実名報道に踏み切るのは早いのではないかと思います。

何よりM氏を紹介するのに東京都神社庁の職員という情報があれば充分であり、奉仕神社の実名を晒して、氏子や総代、地域全体にイメージダウンという不利益を与える必要はないと思います。氏子の人々は横領事件に関与しておらず、「巨悪」でもありませんから、彼らに対する攻撃に大義はありません。

社会悪をタブーなく論難すること自体はジャーナリストの普遍的な使命です。しかしながら論難すべき対象をきちんと見極め、罪なき関係者にまで被害を及ぼさないような配慮も同時に必要なのではないでしょうか?

議を経ては決議

「NEWSレスQ」は横領疑惑で小野貴嗣・東京都神社庁長が引責辞任をして、東京都神社庁長=神社本庁理事が交代すれば、総長選出にも影響を及ぼすことを匂わせていますが、それは「議を経て」は議決であるという前提の発想です。花菖蒲ノ會が主張するように総長は多数決で決するものではなく、統理の指名だけで決まると考えているなら、芦原氏支持の理事が就任したことや小野氏の進退を総長選出にからめて言及する必要はありません。