神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

外苑再開発は救済である

公園が足りません

都心部では緑地や公園が不足し、ヒートアイランドなどの悪影響が発生しています。かといって都心部に公園や緑地に転用できる余った土地はありません。財源も限られています。そのため全国の自治体では以下のような対応を採っています。

  1. 借地公園
  2. 民設公園
  3. PARK-PFI

これらの制度を活用し公園や緑地を拡充していくことが肝要です。それぞれの制度を見ていきましょう。

借地公園

借地公園は行政が民間から土地を無償(タダ)で借りて公園として整備するというものであり、公園として使用が終わったときには原状回復して地主に返します。

地主に対しては固定資産税・都市計画税の非課税、相続税の評価減などのメリットがあります。要するに「税金を安くしてあげるから、あなたの持っている空き地を公園用に貸して下さい」という制度です。

借地公園制度について 横浜市

借地公園制度について/東広島市ホームページ

民設公園

民設公園は東京都で採用されている制度です。100軒の平屋を建てる面積の土地があったとしましょう。その土地を買った企業が30軒分の面積で100軒の家族が居住できる高層マンションを建てて、残り70軒分の面積を公園として開発する。その公園はマンション住民だけではなく、周辺住民にも開放される。東京都としてみれば企業がタダで公園をつくり、維持管理してくれるのです。

もちろん企業やマンション住民に見返りがなければ誰も引き受けません。「あなたの家の駐車場に、あなたのお金でベンチを置いて、周辺住民の憩いの場にしなさい。」と行政から命令されて「喜んで」と返事する人はいません。

企業に与えるメリットは「都市計画公園内の制限緩和により敷地の一部における集合住宅等の建築を認める」という点です。つまり民設公園を設置する代わりに、今まで高層マンションを建てられなかった土地に高層マンションを建設できるようになるのです。マンション住民に与えるメリットは固定資産税や都市計画税の減免です。

この制度はあまり活用されていません。なぜならば公園の維持管理はマンション住民の責任となります。マンション住民が交代で公園の掃除をするか、管理組合が公園維持費を徴収して清掃業者を雇うなどしないといけないからです。毎月、自分の銀行口座から維持費が引き落とされている公園をマンション住民ではない他人も利用できる。当人にしてみれば非常に損をした思いになるでしょう。もちろん税金の減免という恩恵を受けているので、決して損ばかりではないのですが、固定資産税を減免されたお得感よりも、自分のお金が公園の維持費にされていることに対する「自分だけ損している」という感情が勝るのが人情です。

この制度は、マンション住民の土地とお金をつかって、マンション住民以外の人が利用できる公園をつくる代償として税金の減免をするというギブ&テイクをバランスよくしないと成立しません。

PARK-PFI

これは公立の公園や緑地に民間企業が出店することを許可し、その営業利益の一部を公園維持費としてもらうという方法です。実は古くから行われていた手法であり、浅草公園や上野公園などの明治6年太政官布達公園は露天商などに出店を許可する代わりに借地料を徴収し、それをもって公園の維持管理費に充てていました。

Park-PFI(都市公園) | 株式会社デジサーフ

民有地の公園

ここまで説明した通り、公園というのは公共財であり、みんなの空間です。みんなの空間はみんなで管理しないといけません。だから民間の土地(=民有地)を公園として利用する場合は、土地所有者だけが負担することのないように何らかのインセンティブを付与するのが当たり前なのです。

では明治神宮の外苑はどうなっているのでしょうか?

都立明治公園と都市計画明治公園

明治神宮外苑は「都市計画明治公園」とされていますが、これは東京体育館陸上競技場・プール・広場からなる「都立・明治公園」とは別物です。

明治公園 (公園)|TOKYOおでかけガイド

「都立・明治公園」は東京都が維持管理する都立公園ですが、「都市計画公園明治公園」(=外苑)は明治神宮などの地主が管理する民間公園なのです。

民有地を公園にする場合、何らかの恩典を与えないと地主だけが負担することになり不公平だと説明しましたが、外苑にはどんな恩典が与えられているのでしょうか?

それが恩典がほとんどないのです。そもそも宗教法人の境内地なので固定資産税はかかりません。宗教法人の所有地に固定資産税が賦課されない条件は宗教用地であることなので、明治神宮が外苑に宗教用儀式のための建物を建てても宗教法人法違反にはなりません。維持費のかかる公園にしておく義務はないのです。

私に言わせれば、外苑は明治天皇昭憲皇太后を顕彰することが目的なのですから、明治天皇を崇敬しない人々の利用するスポーツ施設になるよりは、聖徳記念絵画館を拡充させて皇室の歴史に関する大博物館をつくった方が創建の趣旨に適っています。再開発に対する反対意見のなかには創建の趣旨に言及するものもありますが、「明治天皇を崇敬する人を増やそう」という発想がない時点で創建の趣旨を本当に理解しているとは言えません。創建の趣旨のうち再開発反対の理論武装に都合の部分だけを利用するのは、数多の労苦を乗り越えて明治神宮を創建し、維持してきた先人に対する冒とくでしかありません。あくまで外苑創建の主目的は明治天皇昭憲皇太后の顕彰です。

そもそも民有地を都市計画公園に設定するのであれば、他に公園を用意するか、借地公園にして地主だけが負担する状況を解消するなどの措置をすべきです。ところが「都市計画明治公園」(外苑)はその救済措置がなされず、みんなが利用できる公園的空間としてその恩恵を誰もが享受しながら、維持管理の負担は明治神宮が負うという不公平な状況が永年続いて来たのです。

再開発は救済措置

再開発に対する反対意見は「明治神宮の土地を公園にし、明治神宮のお金で公園を維持し、みんなに自由に使用させろ。外苑を明治神宮が勝手に改築するのは許さない」と言っているようなもので、明治神宮に対して一方的に負担を押し付けるものです。

「外苑はみんなのもの」と主張するのであれば、「みんなで外苑を維持していこう」という歩み寄りがなければなりません。そのために明治神宮だけが維持コストを負担する状態を解消しないといけません。

民設公園の制度についてご説明しましたが、今回の再開発は民設公園の制度に準じた土地所有者の負担軽減措置であると評価できます。

再開発に反対する前に明治神宮の功績に感謝し、外苑維持の負担を自分もいっしょに背負うという姿勢があるのが、やさしい社会なのではないでしょうか?

そういう地主や事業者に対する思いやりがなければ、借地公園も民設公園もPARK-PFIも成功せず、公園と緑地の不足は永久に解決しないでしょう。