神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

松尾潔氏の「Relay~杜の詩」評を評する

松尾潔氏の評

音楽プロデューサーの松尾潔氏がサザンオールスターズの「Relay~杜の詩」、桑田佳祐氏の問題意識についてRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』でコメントしました。桑田佳祐が神宮外苑再開発に異を唱える歌「Relay~杜の詩」に松尾潔もエール - RKBオンライン

最近桑田さんは「自分たちは人生の残り時間を数えるような年齢になっているけれど、この先の未来を生きていく次の世代のために何を残せるか」ということに、すごく自覚的になっています。

このコメントだけ見れば立派な心掛けだと思えてきますが、「Relay~杜の詩」でやろうとしていることは、「この先の未来を生きていく次の世代のために明治神宮のお金で外苑の杜を残そう」というものです。

松尾氏はサザンオールスターズにとっての外苑はビートルズにとっての「アビィ・ロード」にあたるとも主張していますが、外苑は明治神宮等の私有地、「アビィ・ロード」は公共道路ですから同列に論じるのはどうかと思います。それに自分たちにとって思い出の風景だからといって自分たちの思うままにできる訳ではありません。

例えば、『ドラえもん』には、のび太ジャイアンが遊ぶ土管のある「空き地」がありますね。空き地ですから土地所有者がいます。しかも土管を積み重ねているのは、現代の感覚からすれば「倒れたら危険」ですよね。その土地所有者が家を建てようとしたときに、のび太たちが「ここは僕たちの子ども時代の思い出の場所だから家を建てるな」と泣き叫び、空気砲をもって立てこもることは正しい行為ですか?その反対運動は「僕たちの思い出の場所を維持するために、土地所有者は固定資産税を払い続けろ。土管が倒れて子どもがケガをしたら土地所有者が責任を取れ」と土地所有者の権利を侵害し、コストとリスクを押し付ける不平等・不公正な要求です。空き地を守りたいのであれば、土地所有者から空き地を買い取るのが大人の対応です。

根本的な勘違い

この「Relay~杜の詩」の中でも印象的なのは、「いつもいつも思ってた 知らないうちに決まってる」というフレーズです。これは(神宮外苑の再開発を進める)東京都への批判を超えて、政府の閣議決定でいろんなことが決まっていることへの言及ともとれるわけです。

外苑は税金で維持されている訳でもなく、再開発も税金で行う公共事業ではありません。私法人の事業と閣議決定をごっちゃにしている時点で、松尾氏がこの問題における公私を完全に誤認していることがわかります。

外苑は公共の公園ではなく、宗教法人の私有地です。だから崇敬者、近隣住民など工事の影響を受ける人以外に広告する義務はありません。桑田氏へのアンサーは「知らないうちに決まってるのは、あなたが外苑維持のコスト・リスクを負担していないから」です。

どうしても外苑を自分たちの希望する状態で維持したいのであれば、そのためのコストとリスクを負担すべきです。リスクとコストを誰かに押し付けて、自分の理想を実現させようとするのは利己主義でしかありません。そのような利己主義を私はかっこいいとは思わない。