神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

神道政治連盟と自民党

自民党を支持することに対する質問

宗教と政治の関係について以下のような質問をいただきました(原文には過激な表現がありましたのでオブラートに包んで要約しました。あしからず)。

神道を異端視するような教団と交流のある自民党を神社が支持することは問題がないのか?

今回はこの質問について回答したいと思います。

神社本庁神道政治連盟

まず自民党と接点があるのは神道政治連盟であり、すべての神社ではありません。神道政治連盟(略称「神政連」)というのは神職を中心に1969年に結成された政治団体です。本部事務所は神社本庁内におかれ、歴史的にも神社本庁に所属する神職が立ち上げた団体であり、「神政連=神社本庁」と見る人もいます。

しかし、神社本庁と神政連は別組織であり、総会や予算決算も別々に行っています。ここで考えなければならないのは、神社本庁が直接的に政治活動をした方が会計的にも事務的にも楽なのに政治運動をするための団体をわざわざ創った理由のはなぜかということです。

全国の神社の神職総代の中には政治に興味のない人、政治が嫌いな人もいます。神社本庁の方針には賛同するが、神政連の方針や存在そのものに賛同できない神職もいます。そういう神社・神職が政治運動(神政連)を理由に神社本庁を離脱しなくてもよいように神社本庁と神政連を分離させ、神政連への参加は任意とする。これが別組織とした最大の理由です。

実際に神政連は嫌いだから一度も活動に参加したことはない神職、インターネットなどで神政連や自民党を批判している神職もいますが、だからといってそれを理由に資格をはく奪されることはありません。

神道政治連盟の実績

神政連への参加は強制ではありませんが、戦後の神社関係のなかでは一大勢力です。どうして、それだけ参加者が多いかというと政治・法律的にしか解決できない神社神道の問題が存在するからです。

例えば、神政連の結成前になりますが、神道指令により国有境内地が没収されて神社が消滅するかもしれないという危機に陥ったことがありました。このときは神社本庁を中心に政府やGHQにかけあって、国有境内地処分法(第二次)を制定してもらい、払い下げを実現しました。神道指令という政治的脅威にさらされて、全国の神社は戦後の再出発を踏み出したのです。

その後も靖國神社、津市地鎮祭訴訟、愛媛県玉串料訴訟、砂川政教分離訴訟など数々の政教問題がありました。国旗や国歌の法的な地位の問題、建国記念の日などの皇室に関する政治問題もありました。戦後最大の難関だったのは平成の御代替でした。戦後初の御代替である平成の大嘗祭に際しては過激な反対運動も起こりました。大嘗祭から神道の要素を排除して新しい無宗教的な儀礼として行われる可能性だってあったのです。それに対して伝統に則って執行されるように訴えてきたのが神社関係者であり、その運動の中心だったのが神政連です。

結果としての自民党

神政連の目的は、神社の存亡にかかわる問題で、政治的・法律的にしか解決できない問題を解決するために政治的アプローチ(請願)をすることです。神政連にしてみれば問題を解決してくれるのであればどこの政党だって構わない訳ですし、皇室や神社に関する問題に対し耳を傾けてくれるのであれば、相手の政治家が別の宗教の信徒であっても神政連の請願・要望を説明するのが活動の基本です。しかしながら、半世紀以上の活動の結果から見れば、皇室や神社に関する神政連の請願に理解をしてくれたのは自民党所属の政治家が圧倒的大多数でした。

そうした政治家の集まりが「神道政治連盟国会議員懇談会」であり、同会は「議連」の一種です。議連というのは特定の政治問題に関心をもつ政治家が集まって議論したり、当事者から請願や陳情を聞く会です。請願が100%採用されるなんてことはあり得ず、請願を聞いたけど必要性や妥当性がないと判断されることもあります。議連に参加している政治家は請願を却下することができるのです。この点はどの議連でも同じことでしょう。だから「神道政治連盟国会議員懇談会に参加している政治家=神社界の言いなり」と考えるのは議連がどういうものであるのかを理解していません。

見方を変えると神道政治連盟が選挙に際して発行する推薦状は「この政治家は神道的に理想的なリーダーですよ」という意味ではなく、「この人は神政連の請願に耳を傾けてくれる政治家ですよ」という保証に留まります。

政治団体としての判断

地方の神社関係者から「神政連は自民党だけか」と怒りの声があがることがあります。例えば次のようなケースです。野党議員のAさんは熱心な氏子で、皇室や神社にも理解がある。しかし、同じ選挙区の自民党のBさんは祭典に顔を出したこともなければ、地元の文化や伝統行事にもあまり興味がない。だから地元の神職や総代はAさんに当選してもらいたいのに、神政連はBさんに推薦状を出したというようなケースです。

神道政治連盟政治団体である以上、政治的目的(請願)を実現することが最優先です。そのため、この種の問題は「政治家AさんとBさんのどっちが神道人として好ましいか」ではなく、「神政連の請願が実現するにはどっちを応援した方が得か」で考えなければなりません。Aさん個人は皇室や神社に理解があっても、所属政党の指導部にはアンチ皇室・アンチ神社の有力政治家がいて、その党が議席を増やして政権をとったら請願の実現が遠のくのであればAさんを応援するのは政治的に悪手でしょう。反対にBさん個人は神社に関心がなくても、これを応援することで請願の実現に近づくのであれば、政治団体としてはB支持を判断すべきでしょう。

神道政治連盟は「神道人として好ましいAさんが当選するように応援しよう」という組織ではなく、皇室や神社に関する政治的問題を解決することを目的とした政治団体なのです。

与党に対して

神道政治連盟国会議員懇談会」に自民党議員が多いのは、保守系政党である自民党には皇室・神社に対して理解と関心のある政治家が多いからであって、請願に耳を傾けてくれるのであれば野党議員であっても神政連的にはウェルカムな訳です。

神政連という政治団体が政治家を支持する基準は皇室や神社に関する請願について問題意識を共有できるか、問題を解決する政治的手腕があるかが最重要なのであって、神道的に好ましいというのは二の次です。

神道的に好ましいことを最優先して、最も神道的に好ましい政治的指導者を全国の神社関係者が一丸となって国会議員に押し上げてもせいぜい1人か2人が限度です。1~2議席では請願は実現しません。

そして、請願を実現することが目的である以上、その政党に皇室や神社に関心がなくても与党に対しては必ず請願をすべきです。政治の主導権を握っているのは与党ですから。

さて質問の回答になりますが、「自民党神道を敵視する〇〇教団と親しくなってきたから、神社神道だけの新しい政党をつくって対抗しよう」なんてやったとしても、せいぜい1~2名の議員を国会に送り出すのが精いっぱいであり、結局は「〇〇教団」の勢力に負けてしまいます。だったら自民党に対して請願し続けた方が、与党が「〇〇教団」の色に染まることを防止し、請願が実現する可能性が高まります。それが政治団体としての合理的判断でしょう。