神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

神社の民主的運営

氏子の議決権について考える

氏子の権利義務について、歴史的に運営に参加できる氏子と参加資格のない氏子が存在することを過去のブログで解説しました(マンション建設と氏子の権利義務 - 神道研究室)。運営への参加資格は神社の維持について義務を負う代償として与えられるのであり、参加資格の有無が存在することは決して不公平ではありません。むしろ例祭の準備に積極的に参加して神社の修理に多額の寄付をしている氏子と、一度もお参りしたことのない地域住民が神社の運営に関して同じ発言権を持つ方が不公平です。

議論をわかりやすくするために、ここでは神社の維持について義務を負う代わりに運営への参加資格をもつ氏子を「運営氏子」、義務を負わない代わりに運営への参加資格をもたない氏子を「協賛氏子」と区別することにしましょう。

さて、一般のNPO法人でも議決権をもつ正会員と議決権をもたない協賛会員を区別しています。そして正会員と協賛会員の条件はNPOの「定款」に明記されていますので、協賛会員から「なんで私には議決権がないんだ」といった苦情が寄せられることはありません。これに対し、神社の「運営氏子」と「協賛氏子」の条件は明確になっていません。江戸時代に宮座のメンバーだけで神社を運営していても、他の氏子から苦情が出なかったのは、「宮座が修理費・維持費の大半を負担してくれている」ということが周知されていたからです。ところが現在の神社運営では「氏子拠出金」(地域によって「神社費」や「氏子費」など呼称が異なるが、「氏子一軒あたり〇〇円奉納して下さい」とお願いして廻る奉賛金)は均等であり、運営氏子と協賛氏子の間にわかりやすい差がありません。だから総代や責任役員が納得した事業計画に対し、協賛氏子から「神社の改修計画に私は納得していない」、「氏子の声を聞け」といった苦情が寄せられて計画が頓挫することになるのです。したがって、今後の神社の運営において平等公平を保とうとするのであれば、運営氏子と協賛氏子の条件を明確にすることが不可避です。

そして、その条件は神社によって異なります。神社本庁が決めて全国の神社がそれに従うのではなく、各神社が過去の運営方法や現在の実情、こうありたいと願う運営の在り方を考えて自分たちで決めていかねばなりません。

氏子拠出金を納めた人を運営氏子として認めるのも一つの方法ですが、そうなると氏子拠出金を納めた人をすべて集めて総会を開催し、そこで予算決算や総代選出をしないといけません。地域住民を全員集めた総会を開くようなものですから関係者の負担が重すぎて現実的ではありません。また氏子拠出金の額は地域によって異なりますが、その年の例大祭で費消されてしまうケースが多いです。露骨な言い方になりますが、金額的に神社の維持に対する義務を果たしたとは言い難いです。宮座の歴史から考えて、将来的な神社の建て直し費用の総額を運営氏子の人数で割った金額を、神社の維持に対する義務に相当する金額(運営氏子の条件)だとするのが妥当だと思います。

宮座組織を近代的な組織に例えるならば旧商法の合資会社が近いのではないでしょうか。無限責任社員に相当するのが宮座メンバー(運営氏子)で、有限責任社員に相当するのが協賛氏子に相当すると考えると権利義務が整理しやすいと思います。

現状の神社本庁の「〇〇神社規則」準則は氏子に対して維持について義務を負うことを求めていますので運営氏子を想定してつくっています。しかし、各神社が実情に合わせて運用できるように「運営氏子」の条件までは明記していません。だから実際の神社運営では「運営氏子」の条件を宮司・責任役員・総代で決めて、運営していかないといけないのです。

氏子からお金を集めるのに、どういう使途のお金で、それを寄付する人に対し神社はどのように遇するのかを明確にしないと、これからの時代は通用しません。「毎年〇万円奉賛する人を運営氏子とし、運営氏子のなかから総代を選ぶ」、「一口〇円から寄付してくれた人を協賛氏子として遇する。協賛氏子は神社の運営に議決権はないが、例祭の撤下品を授与する」など条件の可視化をしていけば、神社運営に対する信頼度は高まると思います。

総代と代議制

神社で何をを決めるたびに運営氏子に集まってもらって議論するのは現実的ではありません。そのため神社本庁の「〇〇神社規則」準則では運営氏子のなかから総代を選ぶことになっています。総代の権限について「〇〇神社規則」準則では総代会で責任役員を選出し、予算決算について報告をうけることになっています。

そして総代のなかから選ばれた責任役員が宮司とともに神社の運営について決議していきます。神社が神社本庁や役所に提出書類に署名捺印するのは宮司と責任役員だけです。

一般的な神社の運営組織は以下の通りになっています。

  • 運営氏子のなかから総代を選ぶ
  • 総代のなかから責任役員を選ぶ
  • 代表役員(=宮司)と責任役員で運営について議決していく

このように神社の運営は代議制を採用しています。代議制の場合、まず考えないといけないのは、総代会の権限はどこまでで、責任役員の権限はどこまでといった権限の明確化です。この点については上述の通り神社本庁の「〇〇神社規則」準則に明記されています。次に考えないといけないのは総代および責任役員の選考基準です。これも運営氏子の基準と同様に、各神社の裁量で採用できるようになっています。

現状で多く見られるのが氏子区域を構成する各自治会から総代を選出してもらう方法です。この状況を会員制で説明するならば、その神社は氏子区域をいくつかにわけた各自治会を団体会員の運営氏子とし、各自治会の住民を子会員にしているのであり、議決権は各自治会にあるという運営形態を採用していると解釈すべきでしょう。この方法は自治会の組織を使って連絡が回せますし、自治会で意見の取り纏めなどをしてくれるので、宮司からすれば円滑かつ負担の少ない運営ができます。しかし、自治会員のほとんどが氏子であった時代であれば問題は生じませんでしたが、他宗教の信徒が増えた現代では自治会と氏子組織を一体化して運営することに対して氏子ではない自治会員から批判の声も出てきます。また総代の選任を自治会任せにしてしまうと、自治会役員のあて職や輪番になってしまうので、信仰心の薄い人が総代になることもあります。

今後の課題

ここまでご説明してきたように、現在の神社運営では次の点が可視化できていないケースが多いため、地域住民の神社運営に対する不審を招き、トラブルの原因となっていると思います。

  • 運営に参加できる(議決権のある)氏子の条件
  • 協賛氏子の条件と待遇
  • 総代の選出方法
  • 責任役員の選出方法

以上の点を明確にし、可視化していくことが今後の神社運営には求められていくでしょう。ただ一点ご注意いただきたいのは、神社運営の意思決定のプロセスが可視化できていないだけで、不正な運営が横行している訳ではありません。

神社運営の可視化と同時に自治会からの分離も迫られるでしょう。これに対し今までの自治会と一体化した運営形態でやってきたのに、なんで変更しないといけないのかと神職総代から不満も出てくると思います。その気持ちはわかりますが、自治会そのものがオワコン化しているのが実情です。自治会から氏子組織の独立させて、運営システムを可視化して、誰もが納得のいく氏子拠出金の集め方や運営をしていかないと若い世代の支持を得られず、氏子集団の活性化は難しいと思います。