週刊現代の記事の概要
『週刊現代』(令和5年3月11日号)の「事情通」において、東京都神社庁のトラブルについて論述しています。概要は以下の通りです。
東京都神社庁で中堅幹部による金銭トラブルが発覚!|自浄.jp
週刊誌の読み方
この文章は情報リテラシーの勉強の参考資料になります。
注意深く読むと、この記事で『週刊現代』は庁長が事件を封印(隠蔽)しているとは断言していません。そういう意見もあると紹介しているだけです。
だから読者が『週刊現代』の記事を「東京都神社庁長が事件を隠蔽しようとしている」と誤読してSNSで拡散して、名誉毀損で訴えられても『週刊現代』は責任をとってはくれません。
つまり「~という声を聞く」、「~と言っている関係者もいる」というのは不確定情報だということです。確証のある情報なのか、誰かの推測なのかを見分ける能力は誰もが発信者になることができる現代社会において必須の能力でしょう。
藤原登氏の分析
月刊「レコンキスタ」(令和5年3月1日号)の藤原登氏の寄稿も同様に「事実の隠蔽と責任逃れを画策している節があるというのだ」と断定していません。
明らかになってきた田中・打田一派の卑劣極まる手口の数々!|自浄.jp
つまり小野貴嗣・東京都神社庁長が事件を隠蔽をしているのではないかと言っている人がいるというだけで、本当に隠蔽しているかどうかは確証がないのです。
しかも情報リテラシーとして注意しないといけないのは、1人でもそのように考えている人がいれば「~という声がある」という書き方はできるということです。
隠蔽はありえるか?
結論から言って、客観的に見て小野庁長は隠蔽をしているようには見えません。
金銭上のトラブルとは『週刊現代』の記事によれば「使い込み」だそうです。組織のトップが本気で隠蔽するのであれば、「使い込み」を返金させて、依願退職として内々に処分することだってできます。
だから庁長が東京都神社庁の役員会や支部長、協議員会に対し、金銭上の非違行為を理由に解雇したと報告したのであれば、その時点で小野庁長に隠蔽の意図がないということが確定します。
実際、詳しく書いていませんが『週刊現代』の記事にも非違行為による解雇を「公表」したと書いてあるのですから、小野庁長に隠蔽する意図はないと考えるべきでしょう。
事件の全体像が見えてこない
解雇から1ケ月半も経過して全体像が見えてこないという状況が不審につながっているようですが、使い込みの調査期間として1ケ月半は短いといえるでしょう。
会計調査には時間がかかる
使い込みの調査には時間がかかります。その理由は以下の通りです。
- 決算書や帳簿だけを見ても「使い込み」はわからないので、請求書や領収書を確認しないといけない。
- 請求書や領収書がホンモノかどうかまで調べないといけない。
- 消耗品を3個買って1個は自分用に持って帰ったとか、給料の手当を毎月1000円増額していたなど細かい使い込みも考えられる。
- 会計資料が隠されている、改ざんされている可能性がある。
- その人物が会計に関与した全期間を調査する必要がある。
- 職員1名が減った状態で他の業務をしながら調査をしないといけない。
- 会計士に依頼するにも1月~2月は確定申告などで忙しい。
以上の理由により、年末に事件が発覚してもから3月初旬までに調査を完了させるのは無理です。
調査は慎重を要する
東京都神社庁が最優先すべきは使い込みされたお金を回収することです。そのため使い込み金額の調査に漏れがあってはいけません。
さらに裁判になった場合に「単なる計算ミスだった」、「使い込みの証拠を出せ」、「不当解雇だ」と反論される可能性もありますし、調査不十分だと裁判に負けることだってありますから、本人が使い込みをしたという決定的な証拠は必ず確保しないといけません。何より現時点では容疑です。一人と家族の人生がかかった問題ですから冤罪を生むことがないように調査は丁寧にやらないといけません。
東京都神社庁の規模から考えて、調査しないといけない資料の量は相当なものです。会計士を大勢雇って人海戦術で一気に調査する手段もありますが、会計士を増やせば調査費用も増えます。下手すると使い込み金額を確定するのに半年や1年かかることだってあり得る話でしょう。
解雇は調査のため
東京都神社庁は当該職員をすでに解雇していますが、調査をはじめるために解雇したのであって、解雇をして事件の幕引きを図ろうというものではありません。
こうした事件で危惧すべきは、当該職員による資料の隠滅や改竄です。だから組織のトップが最初にすべきは不正の疑いのある職員がこれ以上、会計に触れることのできない状態をつくることです。
会計に触れることができないように「自宅待機」、「自宅謹慎」にすればいいじゃないかという意見もあるかもしれませんが、それだと賃金を払い続ける必要があります。
自宅待機命令・自宅謹慎処分について!給与支払いの要否などを解説|咲くやこの花法律事務所
自宅待機などは賃金不払いなど新しい労働裁判の火種になりかねません。解雇した後でも使い込みのお金を返還請求をすることはできますので、東京都神社庁が解雇してから調査をしているのは何ら不自然なことではありません。むしろ合理的な判断だといえるでしょう。
被害届は調査の後でも出せる
また被害届が出ていないことに対する不審感を示している人もいますが、神社庁として被害を内部調査してから被害届を出しても遅くはありません。そもそも被害総額を把握していない状況では不完全な被害届しか出せないでしょう。
一般企業でも、
使い込みの調査→回収・示談→被害届
というケースも多いようですので、現時点で東京都神社庁が被害届を出していなくても事件を隠蔽していることにはなりません。
報告すべき相手と手順
都道府県神社庁の運営は各神社からの負担金によってまかわなわています。そのため今回のようなケースで報告しないといけない相手は負担金を納めている各神社に対してです。
しかし、神社庁から直接神社に連絡するというのは稀です。というのも都道府県神社庁は神社が集まって支部をつくり、支部から代表者を出して都道府県神社庁の役員を選出する仕組みとなっています。連絡は逆に都道府県神社庁から支部、支部から各神社へと行うのが手順です。
だから今回のトラブルも東京都神社庁が役員や支部長に対し現状報告をし、各支部から各神社に報告するというのが報告の手順であり、東京都神社庁長が各支部長に現状報告をしているのであれば庁長としての報告義務は果たしているといえます。
もちろん今後、総額などの詳細がわかれば改めて報告する義務はあります。
ちなみに日本国内での「使い込み」は発覚し刑事事件として認知されただけでも毎年1万件以上を数えます。そのため、すべての「使い込み」事件で記者会見が開かれて、テレビで報道される訳ではありません。
統理への進退伺は必要ない
藤原登氏は
と述べていますが、これは神社庁の組織から考えて完全に見当違いな意見です。
東京都神社庁長を選任したのは東京都の協議員会であり、進退伺を出すのであれば庁長を選任した協議員会に対してであって神社本庁統理ではありません。
ちなみに監督責任は非違行為を行った時点の上司に発生しますので、当該職員の非違行為が前々からのものであったとするならば、その時点の上司(つまり過去の庁長や役員)にも監督責任が及ぶのであり、監督責任を追及されるのは現庁長だけとは限りません。
事実調査と回収
客観的に見て東京都神社庁は隠蔽などしておらず、手順を踏んで自浄を図っているように見受けられます。
『週刊現代』や藤原登氏は今回の事件を田中氏や打田氏に結び付けて考えているようですが、「~という声もある」という不確定情報をもとに推測を重ねた「憶測」の域を脱しません。そして、不確かな情報をもとに憶測を重ねて大きな陰謀であるかのように騒ぎ立てるのは百害あって一利なしです。
今は憶測による批判をするよりも、東京都神社庁の役職員が調査と回収に専念できる環境をつくることが肝要だと思います。