神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

本庁役員の選考委員会とは?

役員選考委員会はいつからはじまったか

選考(詮衡)委員会の古い記録は「神社新報」(昭和23年4月5日号1面)に見られます。それによれば

次で宮川氏の辞任に伴ふ補欠選挙に移つたが長野県武藤氏の発案により詮衡委員会で慎重審議することになり、神宮一名各ブロツク二名づつの委員を選び、武藤氏委員長となり、古屋理事より理事会の意向についても説明、詮衡委員会は長谷外余男氏を推すことに満場一致を以て決定、翌二十四日午前武藤委員長よりこの結果を本会議に報告、評議員会は満場拍手裡にれを可決した。

とあって「詮衡委員会」で役員を決定する方法は少なくとも昭和23年に採用されています。

それは慣例として定着し、「神社新報」(昭和57年5月31日号1面)にははっきりと「恒例」と述べられています。

評議員会第三日目は午前十時より再会に先立ち、儀礼文化学会の倉林理事長、高沢会長が挨拶、同学会への斯界の協力を依頼して開会。理事補欠選挙が上程された。これは現在の理事代務者四名に代って、庁規十四条によって全国区三名、地方区一名(北海道)の理事補欠選挙をおこなふもので、轡田勝弥議員(新潟)から「恒例に従ひ、神宮一名、各地区二名からなる詮衡委員会で選出して頂きたい」と発言して承認され、つづいて福田義文議員(兵庫)から詮衡に当っては「副議長選出のやうに、全国では前任者の地区から補充する方法で選出して頂きたい」と発言したあと、同委員を選出して休憩に入った。この間、別室で詮衡委員会が開かれた。

ちなみに「銓衡」も「選考」も意味としては、どちらも人物が適任かどうかを検討し選ぶことです。どっちの表記でもいいので、近年だと簡単な「選考」の方が多用される傾向にあります。

庁規との関連

神社本庁庁規には

第十二条 理事及び監事は、評議員会で選任する。

とのみあります。したがって必ず詮衡委員会を開催しないといけないというものではありません。あくまで「慣例」です。

そして「神社本庁評議員会会議規則」には特別委員会の設置が認められていますので、詮衡委員会を設置することはルール違反ではありません。実際に昭和23年から慣例となっています。

ただし、最終的な決定権は評議員会にあります。つまり直接選挙でもいいけど、評議員会の決議により銓衡委員会方式が採用されているということです。

具体的な流れとしては

  1. 評議員会で「理事・監事は詮衡委員会で決めよう」と誰かが提案
  2. それを評議員会で承認
  3. 神社本庁評議員会会議規則」の特別委員として銓衡委員会に理事・監事の詮衡が付託される
  4. 付託された事案(理事・監事の銓衡結果)について委員会で審議し、評議員会に報告(答申)する
  5. 報告(詮衡結果)を評議員会で承認・否決する

つまり評議員会で「今回は詮衡委員会ではなく、別の方法で決めたい」という意見が多数であれば、詮衡委員会以外の方法で理事・監事の選考をやってもいいわけですし、詮衡委員会で決まったメンバーを評議員会が承認しないということもできる訳です。

だから詮衡委員会に異議がある評議員は「今回は詮衡委員会ではなく、直接選挙がいい」と提案すればいいですし、詮衡委員会の答申に異議があれば「異議あり」と発言することもできます。実際に令和4年の役員改選では異議も出されましたが、最終的には評議員会で報告通り決定したと「神社新報」(令和4年6月6日号)で報じています。

なぜ詮衡委員会で決めるのか

過去の役員の顔ぶれを分析しますと、定数17名のうち

①神宮、②東京都、③関東、④北海道、⑤東北、⑥東海、⑦北陸、⑧近畿、⑨中国、⑩四国、⑪九州、⑫総代会、⑬総代会

が固定で、残り4名の選出地区は変動しています。つまり、各地区1名、神宮1名、総代会2名の理事のポストを確保し、残り4名の席を争う形になっています。そして、この4名が「全国理事」と呼ばれるようです。

各地区1名・神宮1名・総代会2名というバランスを保ちたいのであれば、各地区から代表を出して協議した方が「うちの地区から理事が出なかった」という結果はなくなります。これが詮衡委員会が採用されてきた理由でしょう。

過去の「神社新報」の記事を見ると、各地区2名、神宮1名で詮衡委員会が構成されている記録があります。このように各地区平等に委員を出せば、地区間のバランスは保たれます。

各地区は1枠持っているのか?

このように各地区は実質的に理事のポストを1枠持っています。これを「地区理事」と呼ぶようです。

そうすると、詮衡委員会では「全国理事」4名のみを選挙するように思えますが、過去の記録を見ると補欠選挙でも詮衡委員会を開催し、その際に欠員の出た地区から選出してほしいという意見が出されていますし、詮衡委員会の前に「地区理事」が決定したという記録も見られませんので、理事の詮衡はすべて詮衡委員会に付託されていると見た方がよいでしょう。

つまり各地区1枠の「地区理事」というのは「慣例」にすぎないようです。庁規にも「各地区1名」というルールはありませんし、規程類集や「神社新報」でも「全国理事」と「地区理事」という表記はせず、「理事」で統一しています。要するに「地区理事」と「全国理事」というのは通称なのです。

また「地区理事」が総長・副総長・常務理事になってはいけないという規定もありません。

この地区の1枠について、丹治正博氏は東北地区では庁長の任期の長い人間を充てるという慣例があると述べています。

福島県神社庁報「今、我々は諍いをしている場合であろうか~本庁の総長選任をめぐる混乱の問題点~」|自浄.jp

こういう地区ごとの慣例も県同士の争奪戦を避ける一つの知恵でしょう。しかし、あくまで「慣例」なので、最終的に在任期間の長い庁長を推薦するか、それとも別の人物を推薦するかは地区で協議して決めることです。もし慣例が破られて在任期間が長い人物が推薦されなかったとしても、それが地区内での協議の結果であれば何ら問題ないのではないでしょうか。

この件について藤原登氏は

明らかになってきた田中・打田一派の卑劣極まる手口の数々!|自浄.jp

で令和4年の「地区理事」選出について「横暴」があったと評していますが、地区で協議した結果なら「横暴」とは言えないでしょう。少なくとも地区内の問題なので神社本庁、田中氏、打田氏の関与せざることであり、題名と内容が合致していません。

おわりに

理事選出方法に疑義があるという意見をネット上で散見しました。

実際に評議員会に参加したことのある人であれば説明不要な事柄であっても、評議員ではない神職、総代、一般の人は仕組みがわかりません。多くの人が仕組みを知らない状態で理事選出の是非が議論されるのはよくないと考え、銓衡委員会の規定解釈と記録の調査を試みました。

神社本庁関係者で「ここは実際と違うよ」という点があればご指摘下さい。