神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

「どうする家康」の「お葉」について

「お葉」とは誰か

NHK大河ドラマ「どうする家康」第10話に側室の「お葉」という人物が登場しました。

「お葉」というのは劇中の名前ですが、鵜殿氏の娘であること、家康との間に娘(おふう)を授かっていることから実在の人物である「西郡局(にしのこおりのつぼね)」と同一人物であると特定できます。

西郡局は家康にとって初の側室であり、家康が江戸に転封する際にも同行し、1606年に京都で亡くなっています。娘の督姫は北条氏直と結婚し、のちに池田輝政と再婚しています。池田輝政との間に5男2女を授かり、その子孫は鳥取藩の池田家として続きます。

お葉の劇中での描かれ方

この「お葉」ですが、第10話で侍女の美代が好きだから側室をやめたいと申し出て家康のもとを去りました。

【どうする家康】家康の側室・お葉に視聴者感動 「イケメン女子」「素敵」「カッコイイ」(ENCOUNT) - Yahoo!ニュース

戦国時代の女性の同性愛の記録を私は見たことがありませんが、記録に残っていないだけで実在したとは思います。特に戦国時代は社会的な混乱もあって記録が残りにくい時代ですし、そもそも世の中の全てが記録として残る訳ではない。だから文献史料がないからといって「戦国時代にレズビアンはなかった」と主張するつもりはありません。

しかし、同性愛者だったという記録がない「西郡局」の「SOGI」(性的指向性自認)を製作サイドの都合で勝手に変更してドラマ化してよいのかという疑問がわいてきました。

人権問題として

そもそも研究であっても、小説であっても「SOGI」は慎重に扱わねばならない事項です。本人が公表することを望まないのであれば「SOGI」については触れるべきではないですし(研究上どうしても言及せねばならない場合も最大限配慮すべき事項である)、ましてや実在の人物の「SOGI」を執筆者の想像で勝手に書いたり、作者の都合で変更したりするのはやってはならないことだと思います。

「西郡局」はすでに400年前に亡くなった人であり、それを令和のドラマでどう描こうと勝手だろうと思う人もいるかもしれませんが、ではあなたが400年後に「SOGI」を勝手に変更されて「史実はこうだった」という風にドラマで描かれていいんですか?

人権問題啓発のためによい演出だったという意見もあるようですが、啓発のためだったら故人とはいえ実在の人物の「SOGI」を勝手に変更しても許されるのでしょうか?

もし人権問題啓発のために今回のようなシナリオを描きたかったのであれば、実在の人物ではなく、架空の人物にすべきでした。

以上の観点から「どうする家康」第10話は「LGBTQ+」や「SOGI」について配慮が足りていないと感じました。

神道とLGBTQ+

歴史や死者に対する敬意は神道の要です。歴史上の人物の「LGBTQ+」や「SOGI」についても存命中の人物と同様に配慮すべきだと思います。

なお神道におけるLGBTQ+については過去のブログをご参照下さい。

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