神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

神道を独学するならまず読むべき本

初学者からベテラン神職まで一生活用できる本

よく「神道について学びたいのですが何から読めばいいですか?」という質問をうけます。

一般常識程度にかる~く知っておきたいのではなく、本格的に勉強したいのであれば、紹介する本は

國學院大學日本文化研究所(1999).『神道事典 縮刷版』.弘文堂.

に決めています。

縮刷版 神道事典 | 弘文堂

情報の正確さ

世の中には神道に関する本がたくさんあります。そのなかには著名な研究者が書いたものもあれば、神道の専門家ではないライターが執筆したものもあります。

さらに執筆者の独自の理論をさも一般的な神道理論のように紹介しているものもあります。

これに対して『神道事典』は神職を養成機関である國學院大學の日本文化研究所が編纂したものです。つまり神道学者(専門研究者)が執筆し、編纂過程で別の神道学者がチェックして出版されたということです。さらに出版後も多くの神道学者や神職によって読み続けられているので、『神道事典』に書かれているのは、神道の通説として学界・神社界に認められた情報なのです。

どこからでも読める

一般的な事典はアイウエオ順になっていますが、『神道事典』は神様、神社、神道家、用語などの分野にわけて、その項目ごとにアイウエオ順に掲載しています。

分野別なので、自分の調べたい分野がまとまっている訳です。例えば、吉田神道を調べれば、伊勢神道など他の神道各派が前後に配置されていて、「雲伝神道」とか「烏伝神道」とかマニアックな一派も含めてあらゆる神道の派を把握することが簡単にできます。つまり関連項目を漏らすことなく知ることができるという勉強に向いた構成になっている訳です。

もちろん全体の索引があるので、調べたい項目がどの分野にあるかわからなくても迷うことはありません。しかも最初に掲載された神道の通史が秀逸で、ここを読むだけでも神道の基礎知識が身に付きます。

そもそも事典と聞くと「分厚い=読破するのがたいへん」というイメージがありますが、1つの項目は短いです。たくさんの項目が集まって事典ができています。事典の全部を読破しようと思うからたいへんなのであって、気になった項目だけ読めばいいんです。1つの項目を読めば、神道の知識が1つ増える。それを繰り返せばいつかは神道について博学になる。

つまり暇な時間に興味のある頁をテキトーに開いて読んでいるだけでもどんどん神道の知識が身に付くという便利な本です。

通説がわかっていると

神道事典』で通説を知っておくと、他の神道に関する本を読んだときに「これは通説と違うぞ。執筆者の独自解釈だな」とか「これは通説を発展させた意見だな」とか気づくことができるようになります。

例えば『神道事典』を読んでいれば、「繭気属性」や「神社の属性」は伝統的なものではなく、新しく考えられた占いだということがすぐわかるようになります。

神社に属性ってある? - 神道研究室

学問に限ったことではありませんが基礎が大事です。だから通説をきちんと知った上で自身の考えを構築していったり、研究をはじめた方がいいです。

そして神道の基礎知識を身につけるのに『神道事典』は非常に便利な本です。

独学のリトマス紙

大学院生や研究者というのは基本「独学」です。指導教員は読むべきなのに見逃している論文を指摘したり、研究方法について助言するのみであって、知識の獲得は自分から動かないといけません。だから大学院の授業を受けているだけでは修士号も博士号も取得できません。調べたいという意欲を持ち、自分から動かないと研究は進まない。

つまり大学院生や研究者は知識に貪欲でなければならない。知識は与えられるものではなく、自分で獲得するものです。

神道事典』は独学のリトマス紙だと私は思っています。『神道事典』は神道学者が限られた字数のなかで、自分の専門知識を凝縮して書き上げたものです。その濃厚な知識の宝庫である『神道事典』を手に取って「自分の知らない知識がある」とはまって項目を読み進める人間は独学に向いています。逆に『神道事典』をおもしろくないと思う人は、神道に興味がないか、自ら知識を獲得する意欲に乏しいか、いずれにせよ研究者には向いていません。知識を与えてくれるようなセミナーか一般向け講座を探した方がよいでしょう。

神道人の必須アイテム

神職資格の勉強に通史を読んでおくのと読まないのでは天地の差があります。

現役の神職も少し調べたいときに手元にあれば便利です。

神道事典』は神道人の必須アイテムだといえるでしょう。

本格的に神道・神社について学びたい人は是非とも手に取ってみて下さい。

かる~く知っておきたい人向けの本は改めて紹介します。