神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

先祖の調べ方

家系図をつくってみませんか?

こんな宣伝文句をよく見かけます。では実際に先祖はどこまで遡って調べることができるのでしょうか?

歴史を研究してきた者として私の意見は、学問的に確実な方法で調べて明治時代まで遡ることが出来ればいい方です。

このようなことを言うと「いや苗字でわかるだろ」とおっしゃる方もおられるかもしれません。

佐藤さんは藤原秀郷の子孫か?

苗字で先祖がわかるいうのは、次のような理屈です。

(例)Aさんの苗字は佐藤である。佐藤は事典などによると藤原秀郷の子孫が名乗った苗字である。Aさんの江戸時代の先祖が何をしていたか古文書も家系図もないが、現在のAさんが佐藤という苗字を名乗っているということは藤原秀郷の子孫に違いない。

この理屈は一見正しいように思えますが、次のようなケースが想定されていません。

  • 武家の郎党や領民が主と同じ姓を名乗ることを許された
  • 戦で負けたので親族の姓を名乗った
  • 藤原氏に通じる佐藤の方が朝廷の官位を貰いやすかったから名乗った
  • 真剣勝負で倒した相手の苗字をもらった

以上のようなケースは歴史に散見されます。本当は藤原秀郷の子孫じゃないけど、佐藤を名乗っていることもある。だから苗字で先祖を確定させるのは無理です。

先祖の調べ方

そうすると先祖を確実に調べるには

  • 戸籍を調べる
  • 菩提寺過去帳を調べる
  • 地域の古文書を調べる
  • 地域の口碑(伝承)を調べる

というように記録を地道に探すしかありません。

しかし、記録があるという保証はありません。過去帳も初代から記録が残っているとはかぎりません。戦火で焼けてしまったケースもあります。戸籍は明治に創られた制度です。だから江戸時代まで遡るには、菩提寺の古文書が残っている、江戸時代から同じ場所に住んでいる、武家など記録に残りやすい地位にいた、などの好条件がそろわないと無理な話です。

同じ地域の江戸時代の古文書に出てくる同姓の人物を先祖だと推測するのは、他の証拠、せめて言い伝えでもないかぎりやめた方がいいでしょう。同姓の他人という可能性がありますので。安易に憶測で先祖だと決めつけるとあとで恥をかきますし、万が一にも間違った人を祖先として祀るということはお勧めできるものではありません。

このように先祖を調べるのは非常に難しく、江戸時代まで遡るのはほぼ無理だと言わざるを得ません。

過去を振り返らずに

自分の先祖がわからなくたって、それであなたの人生が決まる訳ではありません。現代は家柄がものをいう時代ではありません。

そして祖先の名前がわからなくなっても「祖霊」として祖先祭祀(供養)は可能です。

無理に家系図をつくるよりも、子孫にとってあなたが誇るべき先祖であるように今の人生を努める方が建設的だと思います。

あと、あなたが先祖を調べるのが難しいということは、あなたの子孫があなたを調べることも難しいといことです。だからA4用紙1枚でいいので、わかるかぎりの先祖の名前、自分の生年月日や出身地、どこの氏子だったとか、そういった記録を子孫のために残しておいた方がいいでしょう。それはあなた自身の死後の安心のためでもあり、子孫が祭祀をするためになります。