神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

国葬における神社の対応

そもそも国葬とは?

戦前において「国葬」は大正15年10月21日 勅令第324號「国葬令」に定められている。

その第1条に「大喪儀ハ國葬トス」とあることが象徴するように、本来の「国葬」とは皇室の喪儀(一般家庭の葬式のこと)を指す。

しかし、第3条に「國家ニ偉勳アル者薨去又󠄂ハ死亡󠄃シタルトキハ特旨ニ依リ國葬󠄂ヲ賜フコトアルヘシ」とあって、国家に功績のあった者が死亡した場合に国葬扱いにしてもよいことになっていた。誰が国葬になるかの方法は同条に「前󠄃項ノ特旨ハ勅書ヲ以テシ內閣總理大臣之ヲ公󠄃告ス」と定められている。

 

皇族以外の国葬の場合(今回の安倍晋三元総理大臣はこれに該当する)の国民の対応としては、第4条に「皇族ニ非サル者國葬󠄂ノ場合ニ於テハ喪儀ヲ行フ當日廢朝󠄃シ國民喪ヲ服󠄃ス

」と喪に服すことが定められていた。現代風にいえば「弔旗を掲げましょう」ということである。更に皇族以外の国葬の場合のやり方については、第5条に「內閣總理大臣勅裁ヲ經テ之ヲ定厶」とある。このように戦前の国葬天皇の決定(勅裁・勅書)によるものであったが、戦後の日本国憲法では規定がないので、岸田内閣は内閣府設置法を法的根拠とした。そのため戦前の国葬と戦後の国葬は同じものとはいいがたい。大義名分論としては、国葬は勅により行われるものであり、内閣が決定すべきものではないという理屈も成り立つ。

神社は弔旗・半旗を掲げず

終戦時に勅令や皇室令は失効しているので法的強制力はないが、「先例」としては参照されるべきものである。

そのため安倍晋三元総理大臣の国葬に弔意を示したい国民が自宅で弔旗や半旗をすることは歴史的に見ておかしいことではない。

 

では神社でも弔旗や半旗をすべきなのだろうか?

この点について、

明治42年皇室令第12号「皇室服喪令」第15条では第1項で「大喪ニハ皇族及臣民喪ヲ服ス」としつつも、第3項で「前二項ノ規定ハ神祇ニ奉仕スル職員ニハ之ヲ適用セス」と神祇に奉仕する者は例外として喪を服さないと定められていた。

忌中に参拝を憚るように、喪を服したまま神明奉仕はできない。その伝統に基づいた規定である。

平たく言えば、「喪を服しては神明奉仕ができないから、神祇に奉仕する者は特別に喪を服さず、天下万民のために祈りなさい」という明治天皇の有難い思し召しだといえよう。

 

ここで「これは宮中祭祀に関する規定であり、一般の神社には適用されないのではないか?」という疑問が生じるが、その点については大正元年8月1日に全国神職会常務幹事である宮西と高山昇は内務省神社局に照会し、一般神職にも適用されることを確認している。

 

更に内務省神社局は神職だけではなく、衛士も神祇に奉仕する者と見なして喪章を付さないと通達している(神祇院『最新 神社法令要覧』京文社、昭和16年)。

 

以上から神社において弔旗や半旗を掲示することは不適(皇室服喪令などの先例に反する)であることは明らかである。

 

今回の議論紛糾の反省点の一つとして、敗戦時に失効した勅令および皇室令で代替法を定めていないものが多い(皇室関係でも)という点も数えるべきであろう。