神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

本庁における緊急動議とは何か②

議案提出権の問題

本庁における緊急動議とは何か① - 神道研究室で「緊急動議」は「議題」の提案であると解説しました。「神社本庁評議員会会議規則」(以下、「会議規則」と略す)第25条、37条、38条において「議題」と表記されています。

ここで1つ疑問が生じるのですが、緊急動議でできるのは「議題」の提案であり、「議案」を提出することができるのは、①統理(ただし庁規40条により総長の補佐を必要とする)と②評議員の署名10人を集めた評議員だけです(庁規32条)。そのため諸規程を読むかぎり、緊急動議の提案者はその日のうちに10人の評議員の署名を集めなければ、自分の望む議案を上程することができないと解釈できます。

言い換えれば、緊急動議が採用された時点で、それに対する具体的な対策(議案)を提出できるのは役員会だけであり、緊急動議の提案者が10人の署名を集められなければ、役員会が提出した議案に基づいて緊急動議の内容を議論することになります。議員提出議案と緊急動議の賛同者の数のバランスを考えても、このように制約があってしかるべきだと考えます。

この「議題」と「議案」の取り扱いの違いについて、神社本庁は曖昧にしてきた(混同している)ふしがあります。この点は今後あらためるべきではないでしょうか?

議題と議案の違いから見てみると

さて、動議は論点や争点を明確にしないと議論をはじめられないことは過去のブログ(総長選任問題と議決権 - 神道研究室)でも述べました。

さらに「議題」と「議案」の相違も踏まえて考えると今回の評議員会における動議の取り扱いが理解しやすいと思います。緊急動議が採り上げられるまで時間がかかり、さらに「芦原理事が、統理の指名に基づき、早期に神社本庁総長に就任することを求めるの件」と文言修正せざるを得なかったのに対し、田中氏の就任を要望する動議は早々に採り上げられました。

前者は「新しい議題の提案」と、その議題についての議案作成だったのに対し、後者の田中氏を推す動議は「議案の修正動議」(対案)だったことを考えれば、後者が早々に採り上げられた合理的な説明がつきます。

評議員会の勝負どころ

「統理の指名権」をめぐる緊急動議には2つの選択肢がありました。

  1. 統理は役員会の議決に関わらず総長を指名できるように庁規変更する
  2. 実際に上程された「芦原理事が、統理の指名に基づき、早期に神社本庁総長に就任することを求めるの件」

上記のメリット・デメリットを比較していきますと、1の庁規変更は出席評議員の3分の2の賛成を必要としますが、現在進行中の裁判結果に関わらず、統理の指名する人物が総長に就任できるようになります。2は出席評議員過半数で議決されますが、裁判所の判決があるので、その効力には疑問が残ります。

令和4年5月評議員会の後の役員会で理事の過半数以上が田中恆清氏を総長にと「議決」し、東京地方裁判所が「役員会の議を経て」は「議決」のことであると判断した以上、それを覆すのは簡単ではありません。評議員会は議決機関ですが、憲章・庁規に反する決議をしても無効です。だから2が過半数で可決されても、田中恆清氏サイドが無効と裁判をおこしたら、東京地裁の判決があるので田中氏サイドの主張が認められる可能性が高いです。

したがって「芦原理事が、統理の指名に基づき、早期に神社本庁総長に就任することを求めるの件」を実現するためには、3分の2の賛成という高いハードルがありますが、庁規改正に挑戦するしか手段はなかったといえるでしょう。

ちなみに憲章や庁規を改正するのであれば、憲章18条、庁規25条・33条にしたがって行う必要があります。

婉曲的な議案・議題はすべきではない

一般論として議論が硬直するとそれを打開しようと様々な戦法が考案されます。その中の一つに抽象的で反対しずらいような議題・議案を提出し、それで過半数の賛成を得て、それを根拠に役員会に自己の要望の実現を迫るという戦法があります。

神社本庁の場合、庁規10条に評議員会の議決を尊重しないといけないという定めがありますので、本来の目的を隠して抽象的な議案で議決しておいて、評議員会が終わった後に本来の目的を達成するために評議員会で議決した内容を言質として利用する戦法がきわめて有効に機能します。

そういったやり方も一種の戦法なのかもしれませんが、やはり議案・議題の目的・内容を議決権者に事前通告し、全員が準備して会議に臨んだがより公正公平で充実した議論ができることはいうまでもありません。

今のところそういう戦法は見られませんが、今後も正攻法の議論で解決に向かってほしいと思います。

今後の課題

今回の緊急動議は「議題」としては採り上げられたが、「議案」としては審議未了となったというべきでしょう。

今後の課題として神社本庁評議員会の議論をより充実させていくためには、「緊急動議」と「議員提出議案」の相違、「議案」と「議題」の相違について明確にしていくことが求められると思います。