緊急動議とはなにか?
5月評議員会で「緊急動議」が提出されましたが、緊急動議の定義と効力について今回は整理したいと思います。
まず「庁規」の関係条文を揚げていきます。
- 第32条 評議員会の議案は、統理が提出する。評議員は、賛成評議員十人以上の署名を得て、議案を提出することができる。
- 第33条 評議員会の議事は、出席議員の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。但し、庁規の変更及び評議員の除名については、三分の二以上の賛成を必要とする。
次に「神社本庁評議員会会議規則」(以下、「会議規則」と略称する)の関係条文を挙げていきます。
- 第24条 議員が議案を発議しようとするときは、その案を具へ、理由をつけ、議員十人以上の賛成者と共に署名して、五月定例会の開催日前日迄に議長に提出しなければならない。議長は前項により提出された議案を採択することの可否を決するため議案審議特別委員会に附託する。但し、議長が委員会に附託するを要しないと認めたものについてはこの限りでない。
- 第25条 動議は、議員二人以上の賛成者を待って議題とされる。
- 第26条 懲罰の動議は、議員五人以上の賛成者がなければ議題とされない。
- 第37条 緊急動議は、日程を変更して議題とされる。
- 第38条 議事手続きについての動議は、直ちに議題とされる。
ちなみに神社本庁憲章に関係規定はありませんが、「神社本庁役員その他機関に関する規程」第10条には
2 評議員会は、庁規に定めるところによりこれをあてる。
とあります。したがって「宗教法人の評議員会ルールと宗教団体としての評議員会ではルールは違う」ということはありません。
10人の議案と2人の動議
規程を見ていくと、次の2種類があることがわかります。
以下の文章では両者を区別するために、1を「議員提出議案」、2を「緊急動議」と表記するようにします。
両者を比較していきますと、まず賛同者の数は議員提出議案は10人、緊急動議は2人と議員提出議案の方が多いです。賛同している評議員の数が多い議員提出議案の方が重く扱われるのは当然です。
つぎに議員提出議案は庁規に定めがありますが、緊急動議は庁規に定めがありません。議員から評議員会に提案する方法として議員提出議案の方が正規の方法だといえます。
一般論としてそもそも緊急動議を認めないケースもあります。マンションの管理組合などにおいては、基本的に事前通告しない内容について緊急動議で決められません。
【参考】総会で予め通知された議案以外の提案(緊急動議)が出された場合の対処法は? - 家族信託なら東京・吉祥寺の宮田総合法務事務所 無料法律相談を実施中!
「神社新報」(3637号)によれば、緊急動議は何物にも優先されるという意見が出されたようですが、賛成者数と事前通告の重要性から考えれば、緊急動議よりも事前通告した議題や議員提出議案の方が優先されるべきであることは明らかです。
最後にここが重要ですが、議員提出議案で上程されるのは「議案」、緊急動議で上程されるのは「議題」と区別して規程されています。
では「議題」と「議案」は何が違うのでしょうか?
議題と議案
「議題」というのは会議の目的であり、「議案」というのは議題に関する具体的な提案です。例えば「本日の評議員会では決算と予算について議決します」というのが議題、それに対して決算書・予算書の表が議案にあてはまります。
ここで注意しないといけないのは、一般企業における「動議」でできることと神社本庁の「動議」でできることは異なるということです。会社法に定める株主総会において株主が「動議」でできるのは、「議案の修正動議」(実質的動議)と「手続的動議」の2種類です。
例えば株式会社ホンチョーが「1号議案 役員改選、2号議案 決算報告、3号議案 予算案」の3つの議題を通知して株主総会を開催したとします。このときに執行部が提案した議案では代表取締役社長の候補はAさんだったが、「Bさんこそ代表取締役社長に相応しい」と修正を要求する動議が「議案の修正動議」です。そして「役員改選よりも先に決算報告をしろ」と話し合う順番を入れ替える提案が「手続的動議」です。出席している株主が「新規事業をはじめるべきだ」と思っても、事前に通知されている①役員改選、②決算、③予算の3つの議題以外を議論することを提案することはできません。
【参考】株主総会当日の議事運営① | さいたま・上野御徒町の法律相談なら弁護士法人 阿部・楢原法律事務所
これに対し、神社本庁の動議は「議案の修正動議」と「手続的動議」だけではなく、「新しい議題の提案」の3種類ができるようになっています。該当する条文を見ていきますと以下のようになります。
- 議案の修正動議・・・該当条文はなし
- 手続的動議・・・「会議規則」36条、38条
- 新しい議題の提案・・・「会議規則」37条=緊急動議
「議案の修正動議」は定めがありませんが、Aという提案に対してBという対案を意見として出すことができなければ会議ではありませんので、条文はないけど「当然できるもの」として書かれていないだけと考えるべきでしょう。
「手続的動議」は「会議規則」36条と38条にただちに議題とされると明記してありますので、「第〇号議案を先に議論すべき」という動議は賛成者が2人いれば、即座に議題として取り上げることになります。そして「議案の修正動議」は修正したい議案の審議中でなければ意味がありません。そうすると消去法で日程を変更して議題とする「会議規則」37条の「緊急動議」が新しい議題の提案を指していることは明らかです。
株主も「議題提案権」が認められていますが、総会の8週間前までに行使しないといけません。総会の当日に緊急動議として新しい議題を要望することはできないのです。
「会議規則」第37条
「会議規則」37条の緊急動議は、事前に通知されていないまったく新しい議題をその場で提案することです。提案者は準備することが可能ですが、神社本庁役員も他の評議員も知らされていないので議論するための準備ができていません。そのため即日議論するのではなく、日程を変更するのは当然のことです。
この日程を変更して議題とする場合の「日程」はいつを指すのでしょうか?評議員会1日目の緊急動議は2日目に議題として議論することが可能ですが、2日目の緊急動議は3日目にするのでしょうか?そんなことをしたら2日だけの予定で上京している評議員は議論に参加できなくなります。
もし2日目に緊急動議されたら、評議員会を3日間に延長して議論しないといけないのであれば、提案者が圧倒的に有利な条件で議論することが可能になってしまいます。緊急動議を出すことがわかっているのは提案者だけですので、提案者が賛同者に「緊急動議を出すから3日目も予定しておいてくれ」と根回ししておけば数で有利な状況で3日目を迎えることができるからです。また都内など神社本庁に近い地域の評議員も圧倒的に有利になるでしょう。
このように公正公平な議論ができなくなりますので、緊急動議の日程変更は翌日に限定されず、「次回開催の評議員会で議題とする」と議決することも可能であると考えるべきでしょう。