神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

イコモスも学術会議も

おまえのものはおれのもの

電気も水道もない伝統的な住居に住んでいる人がクーラーのある生活をしたいと家を建て直す計画を建てました。あなたは文化的価値の高い伝統的な家を保存したいと思い行動することにしました。住民とどう交渉しますか?

仮に「そのままの状態で住み続けろ」と圧力をかけるのは、住民に不便な生活を強いることになり、不公平です。公共財だと主張するのであれば住民から土地と家屋を買い取って国や自治体の所有にすべきでしょう。最低でも維持管理費用に公的助成をすべきです。

明治神宮外苑の再開発も同じことで、外苑をコモンズだと主張するのであれば維持費も公有化すべきです。ところがイコモスや日本学術会議東京新聞、自然保護活動家の主張は明治神宮をはじめとする所有者に負担を強いるばかりで、負担をみなで分かち合う要素がまったくありません。

本当の自然保護とは全人類が自然の恵みとそれを保護するための負担を分かち合うことです。一部の人だけに自然保護の負担を強いて、自分たちは自然を謳歌するだけという利己的なスタンスは自然保護運動ではありません。

外苑に対するイコモスや日本学術会議東京新聞の主張は「おまえのものはおれのもの」と言っているようなものであり、恩恵だけではなく維持のコストを公有してこそ公共財であるというコモンズの基本から再確認すべきでしょう。

神道学者の勝利

国家神道軍国主義国粋主義を生み、それが侵略戦争になったという村上重良の国家神道史観は根強く、今でも島薗進国家神道批判の論文を発表し続けています。国家神道の神社というと大半の人は靖國神社を想像しますが、明治神宮天皇を神格化するために国家が作り上げた洗脳装置だという批判を受けてきました。これに対し神道学者は明治神宮創建は国家の扇動ではなく、国民の純粋な尊皇精神の発露だと反論してきました。

さてイコモスは正式名称を国際記念物遺跡会議(International Council on Monuments and Sites)、といい、ユネスコの諮問機関です。そのイコモスが下記のように提言を出しました。

国民の貢献により創り出された「神宮外苑」は国際社会に誇る、「近代日本の公共空間を代表する文化的資産」です。文化的資産は社会が共有することにより未来への礎となり、世界の文化の発展に寄与するものです。 

このようにイコモスは明治神宮外苑を国粋主義の遺物とせず、国際社会に誇る文化的資産と肯定的な評価を与えました。さらに日本学術会議も同様の提言を平成29年に出しており、また東京新聞をはじめ多くのマスコミはイコモスの提言を肯定的に報じています。見方を変えると、神道学者による「明治神宮軍国主義国粋主義のために創建されたのではない」という主張をイコモス、日本学術会議東京新聞等は認めたことになり、今後、明治神宮軍国主義または国粋主義の施設と批判することができなくなりました。そんなことをしたら再開発反対と論理的に矛盾することになります。

簡単にまとめるとイコモスも日本学術会議東京新聞も「外苑は国際社会に誇るべき文化的資産だから再開発をやめろ」と主張する代償として、「明治神宮国粋主義軍国主義の神社だ」と批判する資格を未来永劫失ったのです。

見直しの代わりに

明治神宮をはじめとする事業者に見直しが迫られていますが、だったら事業者は公的補助を求めればよいのです。

イコモスが「国際社会に誇る」と認定し、都民のオピニオン紙たる東京新聞や新進気鋭のマルクス研究者、政治家、著名人が保存すべきコモンズだと主張しているのですから、現状維持する代わりにそれにかかる費用を都の財政から支出してもらうのは当たり前のことではないでしょうか?

コモンズだから勝手に再開発するなと主張しておきながら、その維持に公的補助をすることに反対するのは論理的に矛盾します。みんなの物ならみんなで守る。小学生でもわかる簡単な理屈です。

事業者が計画のために費やしたコストもキャンセル料として負担すべきでしょう。

明治神宮という宗教法人が公的補助の受け皿になることにためらいがあるなら、外苑を維持するための公益法人を設立したらいい。公的補助と再開発に反対する人々からの寄付(維持しろと言うだけで寄付は嫌だと言う人はないでしょう)があれば、清掃や現状維持のための修繕費は捻出できるでしょう。

少なくとも口だけ出して負担からは逃げる見直し案に大義はありません。見直しをするなら、明治神宮をはじめとする事業者だけが維持コストを負担する状態の解消が最低条件です。