神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

統理インタビューの衝撃

毎日新聞(2023年6月13日)

毎日新聞」古賀攻氏(客員編集員)が聞き手となり、神社本庁統理の鷹司尚武氏に対しインタビューを行いました。

そこが聞きたい:内紛長期化の神社本庁 神社本庁統理・鷹司尚武氏 | 毎日新聞

その内容は極めて衝撃的であり、裁判後にも影響を及ぼすものだといえます。

今回はそのインタビュー内容について論評したいと思います。

世俗的問題だと断言

古賀氏の「神社本庁にはどんな役割があり、統理と総長の関係はどうあるべきでしょうか」という質問に対する回答の中で鷹司統理は「今回の問題は宗教面に行く前に、世俗面のところでこじれてしまっている」と述べています。この発言は裁判における原告側の主張や花菖蒲ノ會が会報で発信してきた主張を否定するものだからです。

今回「総長は、役員会の議を経て、理事のうちから統理が指名する」の解釈について、統理に指名権があるのか、役員会で議決し統理が形式的に指名するものなのかで意見がわれて裁判になりました。これに対し、東京地裁は次のように判断しました。

本件条項は、総長の選任に際し、統理による総長の指名という行為が必要であることを認めつつ、統理による当該指名について責任を負う役員会が総長を実質的に決定することを予定しており、その決定のための手続として、会議体である役員会の議決を経ることを予定している(すなわち、役員会の議決に基づいて統理が指名することが総長選任の効力発生要件になる旨を定めている)と解するのが相当である

この判決に対し、原告側は「神社本庁憲章」が参照されていないと控訴しました。花菖蒲ノ會も会報第10号、11号で宗教団体として統理が総長を指名し、宗教団体の総長が宗教法人の総長(=代表役員)になるという論理を展開し、「宗教団体」としての最高法規である「神社本庁憲章」と「神社本庁役員その他の機関に関する規程」に基づいて総長選出がなされるべきと主張してきました。

原告や花菖蒲ノ會の論理は「統理の指名」を神社本庁の「宗教法人」としての問題ではなく、宗教面の「宗教団体」としての問題と位置付けることで成り立っているものです。ところが、神社本庁の宗教面における最高権威である統理は「統理の指名」の問題は「宗教面に行く前に、世俗面でこじれてしまっている」と発言しました。宗教面にいく前ということは、完全に世俗面の問題だと断定していることになります。

そうすると統理を支持する人たちは「統理の指名」を世俗面の問題として解決しないといけません。「神社本庁憲章」と「神社本庁役員その他の機関に関する規程」は宗教団体つまり宗教面に関する規程ですので、今回の問題を解決するのに用いるのは統理の意に反することになります。花菖蒲ノ會は統理を支持する団体ですので、統理の意に反することはできません。そのため今回のインタビューによって花菖蒲ノ會会報第10号の論理の前提は崩れてしまいました。

要するに花菖蒲ノ會の主張と統理のインタビューの内容に齟齬があるということです。

裁判後の影響

この問題は世俗面の問題だと統理が断言している以上、もし高裁の判断が東京地裁を支持する内容(統理の指名は形式的なもの)だったとしても「いや統理の指名権は宗教面の問題だから評議員会で決着すべき」とか「教学的な問題として判断すべき」という展開にもっていこうとするのは、統理の発言に反することになります。

裁判所の判決に従わないのは、世俗面の問題だとした統理の発言と矛盾することになるからです。