神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

統理の指名の効力ってなに?

質問

今回はご質問をいただいたので回答します。質問は以下の通りです。

あなたは判決をきちんと読んでいますか?「すなわち、役員会の議決に基づいて統理が指名することが総長選任の効力発生要件となる旨を定めている」とは役員会の議決と統理の指名が一致して初めて総長選任がなされるという意味です。

回答

最高裁判決が出た後も、「統理には拒否権がある」とか「統理の指名の効力は否定されていない」などと主張される方がいますが、判決文をきちんと読めば「統理には拒否権がなく、役員会が議決した人物を形式的に指名しなければならない」という結論に至ります。以下、解説をしていきます。

裁判所は互選だとはっきり言ってる

 東京地裁判決の20pには次のように書かれています。

また、原告は、本件条項が、被告の代表役員の選任について、責任役員から成る会議体である役員会の議決に加え、統理による指名という行為を要求していることから、上記指名について役員会の議決に沿うものでなければならないと解するならば、本件条項は法18条2項所定の「責任役員の互選」と同旨を定めていることとなり、本件条項が法18条2項の例外規定として定められたことと整合しなくなるとも主張する。しかし、代表役員の選任について規則に法18条2項と同旨の内容を確認的に定めることもあり得るところであり、本件条項についても、代表役員である総長の選任について法18条2項に定めのない「統理が指名すること」が必要であることを規定しつつ、総長の実質的な決定については同項と同旨を定めたものとみることができるから、本件条項が、役員会の議決により総長を実質的に決定することを排除するものであると解すべき根拠はなく、原告の上記主張は採用することができない。

要するに、神社本庁庁規第12条2項「総長は、役員会の議を経て、理享のうちから統理が指名する」は、統理の指名が追加がなされているけど、宗教法人法18条2項「代表役員は、規則に別段の定がなければ、責任役員の互選によつて定める」と同じ趣旨と解釈すべきだと裁判所は判断しているのです。

決議と異なる指名

また東京地裁判決の20ー21pには以下のような裁判所の見解を示しています。

加えて、原告は、予備的主張として、本件条項について、統理が相当な理由ないし合理的な判断に基づいて、役員会における総長の選任に係る決議と異なる指名を行った場合には、同指名が有効となる旨を定めたものであるとも主張するが、原告が上記主張の前提とする本件条項と法18条2項との関係に係る主張を採用できないことは前記イのとおりである上、原告が主張するような本件条項の解釈は、本件条項の文言から導くことが困難であるといわざるを得ない。
また、被告の庁規等において統理による総長の指名が相当な理由ないし合理的な判断に基づくか否かを区別する基準は規定されておらず、総長の人選に係る判断内容の相当性・合理性の有無の判定には実際上困難を来す場合が少なくないことは容易に想定されるところである。仮に、「相当な理由ないし合理的な判断」に基づくか否かというような不明確な基準により総長選任の効力が左右されるとすれば、被告の組織運営に無用な混乱を招きかねないことは明らかであるから、本件条項が、そのようなことを想定しているものとは解し難い。

原告(芦原理事)サイドは役員会の議決と統理の指名が異なった場合は統理の指名が優先されると主張しましたが、その主張は「採用できない」と裁判所から判断されました。

それに加えて、統理の判断に基づいて総長選任が左右されるようになれば本庁組織が混乱するのは明らかであるから、庁規12条2項は統理の裁量によって総長選任が左右されるような状況を想定していないという見解も示しています。ここから統理に総長選任に関する裁量権がないことがわかります。

統理の指名の効力ってなに?

ここまでの解説を読んで、「じゃあ統理の指名の効力って何なんだ?」と思われると思います。裁判所は「指名」の効力を否定していない。指名に効力があるならば、総長選任を左右する権限はあるはずだ。そのように考える人も少なくないと思います。しかしながら、効力とは拒否権など「決定を覆す」または「決定に影響を及ぼす」ものだけではありません。決定は覆らないけど、手続き上、必要で効力を有する行為というものがあります。例えば、議事録署名の署名捺印です。

たとえ話をしましょう。

ある団体の総会で会則を変更することになり、賛成派と反対派にわかれた。その団体の規則では2人の議事録署名人を選出することになっており、賛成派から1名、反対派から1名が選任された。会則変更については賛成派多数で議決された。後日、その議事録の署名をお願いしたところ、反対派の署名人は「会則変更に反対だから」と署名を拒否した。そして「会則変更は否決されたと書かないと署名しない」あるいは「署名人である私が反対しているのだから総会をやり直せ」と要求してきた。

この署名人の主張が通用すると思いますか?議事録に事実と異なる記載があれば署名人は修正を要求できますが、議決内容をひっくり返すことはできません。「議決内容が気に入らないから署名しない」と主張するのは、道理のある対抗手段ではなく、「おもちゃを買ってくれるまで帰らない」と駄々をこねるのに等しい行為です。だからそんなことする人はまずいませんが、法律や制度はそういうイレギュラーなケースをきちんと想定してつくっておくべきなので、こういうケースにどう対応すべきかは法令などに定められております。例えばマンション管理組合の場合、議事録署名人の一人が「議決内容が気に入らないから署名しない」と主張した場合、基本的にその人以外の署名で議事録が成立します。ただし議事録として成立しますが、全員の署名のある議事録より効力は下がります。

このように議事録署名人の署名には議決をひっくり返す権限はありませんが、事実と議事録が合致していることを証明する効力があります。

議事録に押印がない場合 | 管理組合、マンション管理は「マンサイ」

東京地裁は庁規12条2項の趣旨は宗教法人法第18条2項(役員による互選)と同じ趣旨だとも言っているので役員会の議決をひっくり返すことはできないけど、「すなわち、役員会の議決に基づいて統理が指名することが総長選任の効力発生要件となる旨を定めている」という部分で、統理の指名は総長選任の手続きとしては必要として認めている訳ですね。つまり、総長選任統理の指名には、議決をひっくり返す力はないものの、世俗的には役員会の議決を補完(議事録署名と同様に役員会で議決されたことを証明する)効力があり、宗教的には宗教的権威者から祝福を与える(キリスト教的な表現になりますが)効力があると考えるのが妥当です。

少なくとも「効力がある=決定を左右できる」と考えるのは誤りです。