神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

明治神宮は財政難だから外苑を切り売りするのか?

明治神宮は財政難なのか?

明治神宮外苑の再開発の背景に同宮の収入だけで外苑を維持できないという問題があると報道されています。

明治神宮、実は「財政問題」…外苑再開発の背景に 稼ぎ頭の球場の建て替えがネック 多数の樹木が伐採の危機:東京新聞 TOKYO Web

この報道を受けてTwitterなどでは「明治神宮は参拝者が多く、賽銭も多いはずだから維持できないはずがない」という声も見られますが、これは宗教法人には収益事業というものがあることを知らないことからくる誤解です。

収益事業って何?

境内で休憩所や売店を経営している神社があります。

その売店の利益または賃貸料にも税金はかからないのでしょうか?

そんなズルいことが許されるはずがありません。もちろん神社などの宗教法人が売店を経営する場合は税金を納めることになっています。

そうすると①賽銭など宗教活動のお金、②売店のお金、を区別して管理しないといけません。

この売店などを収益事業といいます。宗教法人がやっていい事業は34種類です。

【参照】

宗教法人と法人税 | 石井文雄税理士事務所

さらに収益事業を行うには、どういう事業を行うか宗教法人の規則に掲げないといけないこと、収益は宗教法人または公益のために使用しないといけない(宗教法人法第6条)、収益事業の収支決算書も所轄庁に提出するという制約があります。

外苑は収益事業

外苑の神宮球場や有料スポーツ施設、企業に場所を貸しているレストランはすべて収益事業です。そこからの収入は賽銭などの宗教活動の収入とはわけて管理しないといけません。

当然、外苑の清掃費などの収益事業の費用も収益事業の収入のなかから支出しないといけません。

要するに、宗教法人法により明治神宮本体と外苑は会計をわけないといけないのです。

  外苑の決算=外苑の収益事業収入ー外苑の収益事業支出

明治神宮の財政で外苑を維持できないのか?

収益事業が赤字の場合、宗教法人の一般会計(宗教活動のための会計)から繰り入れをすることができます。

しかし「賽銭で売店の赤字を補填するくらいなら売店やめちゃえば」と参拝者も思うでしょうから収益事業は赤字になったからといって、一般会計から繰り入れするのは推奨できることではありません。

そもそも収益事業は宗教法人の本来の活動(宗教活動)をサポートするための制度であり、宗教法人の一般会計から収益事業の赤字を補填するのは本末転倒です。

外苑を維持するために明治神宮の一般会計から補填するというのは外苑の「創建の趣旨」にも反します。

つまり、明治神宮の賽銭に頼らず、外苑の収益事業だけで維持していくことが外苑の健全な経営状態なのです。

外苑の収支

森まゆみ氏は「一部には、神宮外苑ほど広い公園を維持する財源が明治神宮にない、という報道も見られるが、そうならば資産や収入支出を公開すべきだろう」(森まゆみ2022,53p)と述べています。

Twitterでも財源がないという説明を疑う声や収支を公開すべきとの声があります。

でも収益事業の決算書は所轄庁(明治神宮の場合は東京都)に提出することになっているので、明治神宮が隠している訳ではありません。ネット上にデータが転がっていないだけで、手続きを踏めば見ることは不可能ではありません。

外苑の健全経営

一般企業だって赤字部署に黒字部署の利益を垂れ流し続けるような真似はしないでしょう。頑張って赤字部署を改善するか、それとも赤字部署を解体するか、シビアな判断を経営者は迫られます。

外苑の収益を上げるにしても、設備が老朽化していては無理です。そうすると大改修は不可避ですが、外苑だけでは修繕費を捻出できない、かといって内苑のお金を外苑に垂れ流すのは問題がある。だったら外苑だけで黒字になるような計画を立てるのは至って健全な経営判断だと思います。

まとめ

宗教法人の収益事業だとわかって見れば、明治神宮の判断に不審な点は見当たらず、むしろ合理的な経営判断だと言えます。

 

【参考文献】

森まゆみ(2022).「神宮外苑は「創建の趣旨」に立ち返れ」『世界』964号,pp.43-53.