神道研究室

在野の神道研究者が神社の問題に鋭く切り込みます

稲荷神社が怖いってほんと?

ネットでよく見る稲荷神社のウワサ

全国各地に鎮座する稲荷神社ですが、最近「稲荷神社に一度でもお願いごとをすると一生お参りし続けないといけない」、「稲荷神社は他の神社と違う」、「御礼参りをしないと祟られる」などのウワサをネットで見かけます。

これって本当なのでしょうか?学問的に調べてみましょう。

 

根拠(エビデンス)はない

まず神職の養成機関である國學院大學皇學館大学で用いられる教本を見てみましょう。ウワサが本当ならば稲荷神社には専用のカリキュラムがあるはずです。しかしながら両大学の教本に稲荷神社を特別扱いするものはありません。つまり稲荷神社も他の神社も同じ教育を受けて神職になっています。

 

次に稲荷信仰に関する研究は多いのですが、近年の研究で、先行研究を網羅し古文書などの史料を丹念に調べた

中村禎里『狐の日本史 古代・中世びとの祈りと呪術』(戎光祥出版、2017)

中村禎里『狐付きと狐落し』(戎光祥出版、2020)

などを見ましてもウワサに該当するものはありません。

 

「稲荷神社に一度でもお願いごとをすると一生お参りし続けないといけない」、「稲荷神社は他の神社と違う」、「御礼参りをしないと祟られる」と信じている個人、家族、地域があるかもしれませんが、それは特殊な事例です。

一般的な稲荷信仰ではウワサはデマだというのが調査結果です。

 

そもそも稲荷信仰がリスクが高いものであるならば、これほど多くの分社が勧請されないでしょう。

 

ウワサの出どころについて推理

このウワサの出どころは、ダーキニーでしょう。ダーキニーはインドの鬼神で、仏教では「荼枳尼天」として祀られています。

この荼枳尼天には「祀るのが難しい」とか「死後に心臓を捧げる契約をすることで願いごとを叶えてくれる」といった信仰があります。そして荼枳尼天と稲荷神は習合します。

要するに、「荼枳尼天=稲荷だから、稲荷神社も荼枳尼天と同じように心臓を捧げないといけない」というのがウワサを提唱した人たちの理論です。

 

この理論は以下の点に欠陥があります。

  1. 荼枳尼天には強力なご利益のために契約を結ぶような特別な呪術もあるが、リスクのない荼枳尼天の祈り方もある。
  2. 荼枳尼天のきちんとした研究が少なく、オカルトを面白おかしく扱った本に書かれた情報をベースに論じる人が多い。
  3. 習合を単純な「=」ととらえるべきではない。

以上です。簡単にいってしまうと、荼枳尼天に祈るハイリスク・ハイリターンの特殊な呪術(信仰)が有名なため、それが荼枳尼天の信仰の全てであるかのように誤解され、さらに稲荷神社にも及んでしまったという訳です。

 

祈り方にはいろいろある

ハイリスクな誓約、複雑な儀式によってハイリターンを期待できる祈り方もあれば、

普通に祈って、普通のご利益を期待する祈り方もあります。

その区別があるのであって、

ふと稲荷神社に立ち寄って参拝するのはノーリスク・ノーマルリターンです。

他の神社と同じように参拝して全く問題ありません。

 

本ブログでは神社や神道について学問的見地からウワサの検証や情報発信をしていきたいと思っています。